
ある古の記憶の中のクリスマス
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今年のクリスマスもVRSNSで過ごす予定だ。
それだとけっこうつまらない話になりそうなので、過去のクリスマス、物理実体だった時のクリスマスの話でもしようと思う。
情報を敢えて仕入れないまま行く予定だからね。
結構前のあるクリスマスに近い日のこと、私はとある都市にいた。
クリスマスセールのためだったかもしれないし、ケーキを買いに行ったのかもしれない。
白く曇る息と冷え込む鼻をそのままに、ある場所の前で足を止めた。
後で知ったのだが、そこでは毎年クリスマスマーケットが開かれているらしい。その年も例にもれず開催していた。
焼けるソーセージの匂いとホットワインの温もりを頬に受けながらも、使う分のお金だけ持っていることを思い出し雰囲気だけ楽しんでいた。
オーナメントの輝きと、積もる雪を払う手。
三角屋根ごとに伸びる人の列をかき分けながらその場を後にした。
NORADに追跡されるサンタ(当時はNORADじゃなかったかもだが)のことに思索を伸ばし、幼いころより現実主義になった自分を省みながら帰路についた。
特に何かあったわけじゃないし幕間めいた過去だけれど、いつも通りのケーキとチキンとうろ覚えのクリスマスソングじゃないあの日、何もなかったあの日のことを何故か覚えている。